子どもが起きていない頃に出社し、寝静まった頃に帰宅する。そんなサラリーマン家庭で育った藤井さん。子どもたちと同じ時間を過ごし、成長を感じながら子育てをしたいと、選んだ道は農業の世界でした。26歳で優希さんが脱サラし、家族5人で鳴門市へ移住。3人の子どもを抱えながらも夫婦2人でれんこん農家に飛び込みました。いまでは藤井ファームとして独立し、オリジナルブランド「わはは」も立ち上げた藤井さん。中学生になったお子さんも一緒に手伝いをすることもあるようで、農業と子育てを両立させた温かい家庭を鳴門でつくられていました。
なぜ夫婦で農業に挑戦しようと?
もともとサラリーマン家庭だったこともあり、平日起きている間に顔を合わすことがほとんどなく、休日も疲れていたのか一緒に遊んだ記憶がなかったというのがあり、自分たちは子どもたちとの時間を極力つくれるようなライフスタイルにしたいなと思っていたのがきっかけでした。
祖父が県内で農業をしていたこと、夫の家庭が農業に近い職業をしており、夫自身学生時代梨のバイトをしていたこともあり、もともと農業が身近な存在でもあったので、独立就農を目指して、23歳の頃に地元徳島の県内各地を訪れ、自分たちで挑戦できる作物はないか、受け入れてくれる場所はないか探し回りました。
就農先を見つけてから移住だったと思いますが、スムーズにいきましたか?
実はかなり苦労しました(笑)。 各自治体や農家さんのタイミングもあったのかもしれませんが、自分が仕事をしながらということもあり、就農先になったれんこん農業の師匠にお世話になると決めるまで2年かかりました。そこからはトントン拍子で就農先を決め、鳴門市に移住しました。本気で農業に取り組まなければいけないと思い、先に私が就農し、サラリーマンだった夫は引継ぎなどの関係で後から脱サラして就農しました。そこでは、20町(ha)10人強の従業員の方と一緒に5年間学びながら働かせてもらいました。
農業は初めての挑戦ということもあり、体力面など苦労もありましたが、師匠がとても懐が広い方で、「地域を元気にするためには子どもたちの元気な姿が必要だ。よそからの若い力が必要だ。」と言ってくださり、縁もゆかりもない我々を快く受け入れてくださって、独立する際にも色々助けてもらいました。今でも家族ぐるみの付き合いをしており、独立前には師匠の農場で働く中国からの留学生を家に招いたりもしていました。
率直に移住してみてよかったですか?
仕事も生活も充実しすぎているというのが本音ですね(笑)。師匠との縁をはじめ、周りの農家さんに助けてもらいながら仕事も生活も安定してきました。サラリーマン時代に比べるとリスクがある分収入面もよくなったので、生活にも余裕ができました。まだ気は早いですが子どもたちが良ければ農家を継いでもらいたいなと思っているので、楽しそうにする姿を見せるようにしています。そうするとお小遣い欲しさもあってか手伝いをしてくれますし(笑)。大麻町のれんこんとしてたくさんの人の元に届けるために家族一丸となって取り組んでいければなと思います。
移住という面でいうと鳴門の良いところは何と言っても京阪神とのアクセスの良さ。2時間もあれば関西方面にも出られるのは徳島県に住むならダントツで一番ですね。空港の距離も近いので都市部とのアクセスを気にする方にはおすすめの立地だと思います。県庁所在地の徳島市からも20分かからないくらいです。住環境も基本的には文句なしです。 あえて言うなら私たちの住む大麻町エリアにはコンビニはありますが、スーパーマーケットがないことですかね。市街地まで車で20分かけていくか隣町のスーパーに行かなければならないので、そこを不便に感じなければとても過ごしやすくていい場所だと思います。
独立してからの生活はどんな感じでしょうか。
夏場だと朝5時から7時まで畑で作業して、途中家に帰り、子どもたちと朝ごはんを食べてお見送りします。そのあとまた11時まで畑で仕事をして、日が昇ってくるとお昼をとって15時くらいまで倉庫内作業をしています。冬場は朝が暗いので倉庫内作業を先にして、日が出るころに収穫作業を行います。通常だと夕方から時間ができるので、子どもたちとの時間を過ごすようにしています。あとは体が資本ということもあって週1回は温泉や整体に通っていますね。
年単位で見ると、3月下旬ごろに植え付けを行い、7月下旬ごろから翌年の6月まで畑を変えながら収穫作業に入ります。消毒作業や肥料やりなど畑の管理をしながらにはなりますが、6月から7月の間や、最盛期を翌月に控える11月は集中的に休みを取るようにしています。独立しているので、休みは自分たちで決めていますが、まるまる1日休むとなると月1くらいかなという感じで、盆と正月くらいはゆっくりできますかね。御節需要が高まる最盛期の12月や収穫時期の終わりを迎える6月なんかは特段忙しく、夜中まで作業することも多く、3時から23時なんていうときもあります。スローライフを求める人にとってはれんこん農家は向かないかもしれません(笑)。
逆にどういった人に向いていると思いますか?
私たちは子どもたちとの時間をつくること、家族5人が食べていけることを意識して就農しました。農業で苦労をすることがあっても、参観日や運動会に応援に行ったり、クラブ活動の送り迎えができたりと子どもに合わせた生活が送れるのは独立農家ならではだと思います。何か目的意識をもっていること、自分の力でどんどん大きくしていきたい、いい作物を育てるために努力したいという意欲がある方にはおすすめなんじゃないかなと思います。
藤井さんのれんこん美味しいですよね。こだわりがあったりしますか?
ありがとうございます(笑)。藤井ファームでは、食べた人も作っている人も笑顔でいられるようにという想いを込めて「わはは」というオリジナルブランドをつくりました。鳴門産れんこんは品質の良さから高級食材として取り扱われることも多く、主に奈良・大阪・京都の産直に出荷しています。鳴門市の中でもとくに大麻町は伝統工芸品の大谷焼にも使われる強い粘土質の土質で、土圧が強いので、味がきめ細やかで舌触りが格段に良いのが特徴です。特に8月頃の若いれんこんは瑞々しさの中にしっかりした旨味があります。れんこんといったらきんぴらや煮物、天ぷらにされる人が多いかと思いますが、うちでは、レンジでチンして塩とマヨネーズをかけて食べてます。出来立てだとトウモロコシのような匂いがして箸が止まらなくなりますよ(笑)。
あとは、消費者の皆さまに安全・安心な農作物を購入してもらうために徳島県が農作物の生産・品質管理体制(農場)を検査・認定する制度「とくしま安2農産物(安2GAP)」の認定も受けており、「食品安全」に加え、「環境保全」や「労働安全」にも配慮した農業生産体制をとるようにしています。
将来の夢を教えてください。
藤井ファームでは、見た目にも良いモノを口にしてもらいたい気持ちがあり、厳選したれんこんを出荷しています。となると味は変わらなくても色が悪かったりするものは送り出すことができなくなり、廃棄につながってしまいます。畑によりますが、多い時は8割廃棄しないといけないケースもある。丹精込めて作ったれんこんを少しでも食べてもらいたいという気持ちもあり、加工品にできないかと思いを巡らせているところです。
あとは、師匠や周りの農家の方々に助けられながらここまでこれたということもあるので、本気で農業に挑戦したいという人が困っていたら自分たちにしてくれたように助けてあげられるようになりたいですね。そのためにも高い品質を維持すること、人を雇い農場を大きくしていくことに取り組んでいきたいです。